既存の C モジュールから WebAssembly へのコンパイル
WebAssembly の主な用途は、既存の C ライブラリーのエコシステムを取得し、開発者がウェブ上でそれらを利用できるようにすることです。
これらのライブラリーは、C の標準ライブラリー、オペレーティングシステム、ファイルシステムやその他のものにしばしば依存します。 Emscripten は、いくつかの制限はあるものの、これらの機能のほとんどを提供しています。
例として、 WebP のエンコーダーを wasm にコンパイルしてみましょう。WebP コーデックのソースは C 言語で書かれており、 GitHub にあり、拡張 API のドキュメントも同様に利用できます。これはとても良いスタート地点です。
git clone https://github.com/webmproject/libwebp
簡単な例から始めましょう。 WebPGetEncoderVersion()
を encode.h
から JavaScript に公開するために、 webp.c
という C のファイルを書きます。
#include "emscripten.h"
#include "src/webp/encode.h"
EMSCRIPTEN_KEEPALIVE
int version() {
return WebPGetEncoderVersion();
}
これは libwebp のソースコードをコンパイルできるかテストするのに適したシンプルなプログラムです。この関数を呼び出すのに引数や複雑なデータ構造は必要ありません。
このプログラムをコンパイルするには、コンパイラーに -I
フラグを使って libwebp のヘッダーファイルがどこにあるか指示し、さらに libwebp の必要な C ファイルをすべて渡す必要があります。コンパイラーにすべての C ファイルを渡し、コンパイラーが不要なものをすべて取り除いてくれるようにすると便利です。これはこのライブラリーではうまくいくようです。
$ emcc -O3 -s WASM=1 -s EXTRA_EXPORTED_RUNTIME_METHODS='["cwrap"]' \
-I libwebp \
webp.c \
libwebp/src/{dec,dsp,demux,enc,mux,utils}/*.c
メモ:
この方法はすべての C プロジェクトでうまくいく訳ではありません。多くのプロジェクトでは、コンパイルの前にシステム固有のコードを生成するため、 autoconf/automake に依存しています。 Emscripten は、これらのコマンドをラップして適切な引数を注入するための emconfigure
と emmake
を提供しています。詳細は Emscripten のドキュメントを読んでください。
これで、新しいモジュールを読み込むために必要なのは HTML と JavaScript だけになりました。
<script src="./a.out.js"></script>
<script>
Module.onRuntimeInitialized = async () => {
const api = {
version: Module.cwrap("version", "number", []),
};
console.log(api.version());
};
</script>
そして、正しいバージョン番号が出力されます。
メモ: libwebp は現在のバージョン a.b.c を 16 進数の 0xabc で返します。例えば、v0.6.1 は 0x000601 = 1537 としてエンコードされています。
JavaScript から Wasm に画像を取得する
エンコーダーのバージョン番号を取得するのは素晴らしいことですが、画像をエンコードした方が印象的です。どうすればいいのでしょうか?
最初に答えなければならない質問は、どうやって画像を wasm に入れるのかということです。libwebp の Encoding API を見ると、RGB、RGBA、BGR、BGRA のバイト列を期待していることがわかります。幸いにも Canvas API には CanvasRenderingContext2D.getImageData
があり、RGBA の画像データを含む Uint8ClampedArray
が得られます。
async function loadImage(src) {
// Load image
const imgBlob = await fetch(src).then((resp) => resp.blob());
const img = await createImageBitmap(imgBlob);
// Make canvas same size as image
const canvas = document.createElement("canvas");
canvas.width = img.width;
canvas.height = img.height;
// Draw image onto canvas
const ctx = canvas.getContext("2d");
ctx.drawImage(img, 0, 0);
return ctx.getImageData(0, 0, img.width, img.height);
}
これで、残った「唯一の」問題は、 JavaScript から wasm にデータをコピーすることだけです。そのためには、追加で 2 つの関数を公開する必要があります。 1 つは、 wasm 内で画像のためのメモリーを確保する関数、もう 1 つは、それを再び解放する関数です。
#include <stdlib.h> // required for malloc definition
EMSCRIPTEN_KEEPALIVE
uint8_t* create_buffer(int width, int height) {
return malloc(width * height * 4 * sizeof(uint8_t));
}
EMSCRIPTEN_KEEPALIVE
void destroy_buffer(uint8_t* p) {
free(p);
}
create_buffer()
関数は RGBA 画像用です。したがって、ピクセル当たり 4 バイトのバッファーを確保します。 malloc() が返すポインターは、そのバッファーの最初のメモリーセルのアドレスです。ポインターが JavaScript に返されると、それは単なる数値として扱われます。この関数を cwrap を使って JavaScript に公開した後、その数値を使ってバッファーの開始点を見つけ、画像データをコピーすることができます。
const api = {
version: Module.cwrap("version", "number", []),
create_buffer: Module.cwrap("create_buffer", "number", ["number", "number"]),
destroy_buffer: Module.cwrap("destroy_buffer", "", ["number"]),
encode: Module.cwrap("encode", "", ["number", "number", "number", "number"]),
free_result: Module.cwrap("free_result", "", ["number"]),
get_result_pointer: Module.cwrap("get_result_pointer", "number", []),
get_result_size: Module.cwrap("get_result_size", "number", []),
};
const image = await loadImage("./image.jpg");
const p = api.create_buffer(image.width, image.height);
Module.HEAP8.set(image.data, p);
// ... call encoder ...
api.destroy_buffer(p);
画像をエンコードする
wasm で画像を使えるようになりました。いよいよ WebP エンコーダーを呼び出して動かす時が来ました。WebP のドキュメントを見ると、WebPEncodeRGBA
がふさわしいようです。この関数は、入力画像へのポインターと画像の寸法、そして 0 から 100 の間の品質オプションを受け取ります。また、出力バッファーを確保するので、 WebP 画像の処理が終わったら WebPFree()
を使って解放する必要があります。
エンコード処理の結果は、出力バッファーとその長さになります。C 言語の関数は(メモリーを動的に確保しない限り)返値の型として配列を使うことができないため、この例では静的なグローバル配列を使用しています。これはクリーンな C 言語とは言えないかもしれません。実際、これは wasm ポインターが 32 ビット幅であることに依存しています。しかし、これは話を単純にするための公正な手段です。
int result[2];
EMSCRIPTEN_KEEPALIVE
void encode(uint8_t* img_in, int width, int height, float quality) {
uint8_t* img_out;
size_t size;
size = WebPEncodeRGBA(img_in, width, height, width * 4, quality, &img_out);
result[0] = (int)img_out;
result[1] = size;
}
EMSCRIPTEN_KEEPALIVE
void free_result(uint8_t* result) {
WebPFree(result);
}
EMSCRIPTEN_KEEPALIVE
int get_result_pointer() {
return result[0];
}
EMSCRIPTEN_KEEPALIVE
int get_result_size() {
return result[1];
}
これで、エンコーディング関数を呼び出し、ポインターと画像サイズを取得し、それをあなたの JavaScript バッファーに格納し、プロセス中で確保されたすべての wasm バッファーを解放することができるようになりました。
api.encode(p, image.width, image.height, 100);
const resultPointer = api.get_result_pointer();
const resultSize = api.get_result_size();
const resultView = new Uint8Array(
Module.HEAP8.buffer,
resultPointer,
resultSize,
);
const result = new Uint8Array(resultView);
api.free_result(resultPointer);
メモ: new Uint8Array(someBuffer)
は同じメモリーチャンク上に新しいビューを作成し、 new Uint8Array(someTypedArray)
はデータをコピーします。
画像のサイズによっては、 wasm が入力画像と出力画像を格納するためのメモリーを十分に大きくすることができないというエラーが発生する可能性があります。
幸いにも、この問題の解決策はエラーメッセージの中にあります。コンパイルコマンドに -s ALLOW_MEMORY_GROWTH=1
を追加するだけです。
これで完了です。 WebP エンコーダーをコンパイルし、 JPEG 画像を WebP にトランスコードしました。うまくいったことを証明するために、結果のバッファーを blob にして<img>
要素で使用してください。
const blob = new Blob([result], { type: "image/webp" });
const blobURL = URL.createObjectURL(blob);
const img = document.createElement("img");
img.src = blobURL;
document.body.appendChild(img);
見よ、新しい WebP 画像の栄光を。